顧客データの収集とデータ整形
昨今「Data is the new oil (データは新しい石油である)」と言われています。データはビジネスの資産であり、それ自体が価値のあるものとして、収集、保管、取引されるようになったという考え方です。
しかし、石油と同じように、データも手の届かないところに埋もれていては意味がありません。データの中にある価値を引き出すには、それを掘り起こし、洗練させ、活用できるようにしなければなりません。
現在、多くの企業は大量のデータを保有していますが、ビジネスをドライブさせる燃料としてではなく「埋もれた宝」となっていることが少なくありません。複数の異なる部門が顧客データを収集し、サイロ化されたシステムに保管しています。例えば、カスタマーサービス部門とマーケティング部門とでデータが共有されていない、マーケティング部門がデータベースを営業チームから切り離して保管している、などです。
こういった課題を解決するために必要なのは、社内のデータソースを統合して単一のソース、信頼できる唯一のデータソース(シングルソースオブトゥルース:SSOT)を作ること、つまりデータを収集、整形し、分析できる基盤を作ることです。
このステップでは、なぜ質の高いデータが重要なのか、収集すべきデータはどのようなものか、分析するためにデータを整形する方法をご紹介します。
データの品質が重要な理由
顧客データが重要であることに疑問を抱くマーケターは少ないでしょう。しかし「整理された信頼できるデータ」の重要性を過小評価してしまう可能性はあります。不完全なデータや欠陥のあるデータに基づいて意思決定を行っていると、自分の直感に従うよりも悪い結果になることもあります。
購買における一般的なカスタマージャーニーを考えてみましょう。当社の調査によると、顧客の3分の2は購入前に少なくとも3つのタッチポイントで企業と接触しており、33%は6つ以上のタッチポイントで接触しているといいます。
では、取得しているデータが3つのタッチポイントのうち2つ、または6つのタッチポイントのうち3つだけを捉えているとしたらどうでしょう。データの帰属モデルに誤差が生まれ、的外れなパーソナライゼーションを行ってしまい、顧客のエンゲージメントが低下してしまうこともあるかもしれません。潜在的な顧客と接するまたとない機会を逃し、さらには顧客を完全に失ってしまうリスクもあります。
【ケース1】
Webサイトへのトラフィックが急に増加しました。Googleのアナリティクスによると、新しいキーワードでランキングされていることがわかりました。そこであなたはWebサイトの開発にもっと投資をして、SEO経由のトラフィックを倍増させ、新しいコンテンツを制作することにしました。
しかし実際には、CEOが大人気のポッドキャストに出演し、Webサイトを宣伝していました。これが新しいトラフィックの流入がランキングの原動力になっていたのであって、SEOの成果ではなかったのです。
【ケース2】
昨年の最終四半期末にまとめたトラフィックレポートに基づいて、あなたはブログの編集カレンダーを作成しました。作成してから3ヶ月経った戦略的なコンテンツプランは、現在のターゲットにどれだけ関連性のあるものになっているでしょうか?手元にたくさんのデータがあっても、意思決定の指針とするにはあまりにも古くなってしまうことがあります。
これらのケースから、高品質な顧客データソースの4つの特徴を定義することができます。
- 網羅性 – 顧客や潜在顧客を扱うすべての部門のデータがまとまっている
- 適時性 – データの転送は手動でコピー&ペーストするのではなく、リアルタイムで更新されている
- 関連性 – データは意図した用途に適している
- 信頼性 – 正確さと信頼性を確保するために、データは精査、検証され、充実している
統合するデータの種類
組織内のデータを収集・統合するための基盤構築をするには、顧客体験の向上、顧客との関係構築に関連したデータに焦点を当てることが大切です。
必須となるデータソースのリストをご紹介します。
- 店頭およびECでの販売データ : 実店舗を展開している場合、オンラインとオフラインの両方の販売データをCDPに連携することが不可欠です。オフラインでのプロモーションを通じて顧客のオンライン行動に影響を与える機会を確実に発見することができ、その逆も可能です。
- Web閲覧データ : 閲覧数やページ滞在時間だけでなく、Web上の顧客の行動を深く掘り下げましょう。CDPには、顧客がどのようにサイトに流入したか、どのブラウザでどの程度クリックしたか、そしてその次のステップは何だったのか、などが含まれている必要があります。
- アンケートデータ : 直接の顧客の声は非常に貴重です。NPS(ネットプロモータースコア)、製品・サービスへの満足度、またはアンケート取得の際の体験データを追跡している場合は、それがCDPに含まれていることを確認してください。
- カスタマーサービスのデータ : 購入後も顧客とつながり続けることに関心がないマーケティング担当者はいません。製品やサービスを通じて、人々がブランドをどのように体験しているかを知ることが重要です。
- 営業部門のデータ : 営業部門には、マーケティング担当者にとって有用なデータが多くあります。購入や商談・成約など販売データの他に、コンテンツ作成のヒントとなる潜在的な見込み客リストや、見込み顧客へのメッセージングを改善するために利用できるデータが、使われずに眠っているかもしれません。
- 広告データ : Google広告などのアカウントからのデータをCDPに連携します。他のデータと組み合わせることで、どの広告が効果が高いのかをより正確に把握することができます。
- MA(マーケティングオートメーション)データ : マーケティングオートメーションはデータの宝庫です。HubSpot、Marketo、SalesforceなどをCDPに連携することで、CDP、MAどちらの価値もさらに高まります。
- ロイヤリティプログラムデータ : ロイヤリティプログラムを導入している場合、顧客がいつ、どこで、何を購入しているかに関する多くのデータが生成されています。このリストを他のデータと組み合わせることで、最もLTVが高い顧客を特定することができます。
- レガシーデータ : ハードドライブやファイリングキャビネットの中になど、オフラインの形式で過去の顧客データが眠っているかもしれません。このような古いデータは、カスタマージャーニーのイメージを形成するのに役立ちます。例えば、あるTreasure Data CDPユーザーは、80年分の収集データを使用して優れた成果を上げています。
- ウェアラブルとIoTデータ : これらのデータソースはまだ黎明期にありますが、マーケティング担当者はその可能性に目を光らせておく必要があります。スマートウォッチ、IoT家電、スマートホームデバイスは、マーケティング担当者にとって有用なデータを生み出しています。
顧客データの整形
あらゆるデータソースをCDPに連携することが最初のステップです。次のステップでは、データが整っていて信頼できるかどうかを確認していきます。
顧客データの整形プロセスは、不完全であったり、破損していたり、さらには重複しているデータを特定するのに役立ちます。複数のソースからのデータを組み合わせているので、分析を開始する前にすべてのデータを整えることが重要です。以下の手順で進めましょう。
- 検証と精査 : CDPで、欠落したデータ、偽のデータ、または無関係なデータを検出します。例えば、偽名とわかるのフォーム入力、存在しないURLの会社で働く人々、明らかに誤りであるの電子メールアドレスなどです。
- 重複しているものの統合する : 顧客プロファイルを作成するためには、重複したデータを取り除くことが極めて大切です。例えば、同じ住所に住んでいる「鈴木太郎」さんと、「鈴木タロウ」さんのデータが存在することは望ましくありません。CDPは、新しいデータが追加されると、この作業の多くを自動的かつ継続的に行うことができます。
- フォーマットの標準化 : 郵便番号のフィールドは7桁ですか、それともハイフンを含めた8桁ですか?性別はどのようなタイプの入力を受け入れますか?このプロセスでは、データソースとその標準フォーマットを決定し、CDP上でそのデータがどのように表示されるかを決定することなどが該当します。
- 古い情報を削除する : メールアドレス、役職、住所などの情報は、時間の経過とともに変化します。6ヶ月以上または1年以上前の記録がある場合は、直接コミュニケーションして検証を行ったり、最新の外部データを使用してデータ更新することをおすすめします。
顧客データを拡張させる方法
「データエンリッチメント」とは、顧客データに外部データを追加し、1stパーティデータと組み合わせるプロセスです。
- 1stパーティデータとは、企業が顧客から直接収集した独自のデータのことです。
- 外部データとは、直接またはデータマーケットプレイスを通じて入手した他社の1stパーティデータ、または顧客と直接関係のない企業が集計したデータを指します。
それぞれ、精緻な顧客プロファイルを作成するのに役立ちます。
データエンリッチメントによって、顧客の解像度が上がった例をご紹介します。
CDPは、様々な外部データベンダーから連携される多種多様なデータを処理できなくてはなりません。
外部データなどを既存の1stパーティデータと紐づけることで、信頼できる唯一のデータソース(シングルソースオブトゥルース:SSOT)を作成することができ、さらにそのデータを活用して施策実行が可能であるということは、CDPが持つ非常に重要な機能です。