トレジャーデータ、ABMへの挑戦【前編】〜CDP for Salesによる営業・マーケティング改革〜
企業の法人営業・マーケティングを強力に支援する顧客データ基盤「Treasure Data CDP for Sales(以下、CDP for Sales)」。
トレジャーデータ自身も、CDP for Salesを基盤に、自社の営業・マーケティング活動を展開しています。本記事では、トレジャーデータのアカウントディベロップメントチームが、どのようにCDPを活用し、成果をあげているのかをご紹介します。
前編では、CDP構築の背景、データ基盤の構成、ターゲティング方法について取り上げます。
トレジャーデータの組織とデータ基盤構築のあゆみ
CDP for Salesの活用事例を紹介する前に、簡単にトレジャーデータの組織体制についてご紹介します。トレジャーデータの営業及びマーケティングの組織では、いわゆる「THE MODEL型」の分業制を採用しています。マーケティング、アカウントディベロップメント(インサイドセールス)、セールス、そしてカスタマーサクセスの4つの組織が、契約前から契約後まで、顧客のステージに応じて担当を変えています。
今回取り上げるアカウントディベロップメントチームのミッションは「ターゲット企業からの有効商談の獲得」であり、新規開拓を担当するBDR(Business Development Representative:ビジネスディベロップメントレプレゼンタティブ)と、ナーチャリングそしてインバウンドの問い合わせ対応を担当するSDR(Sales Development Representative:セールスディベロップメントレプレゼンタティブ)、ABM(Accoount Based Marketing:アカウントベースドマーケティング)推進で構成されています。
チームミッションを実現するために必要なことは、以下3つの連続したフェーズです。
- ターゲット企業を戦略的に定義すること
- 該当企業と企業に在籍する個々人を理解して、ニーズや課題を先読みすること
- 適切なチャネルやタイミングでお客様にアプローチを行い、CDPに関するご説明をして興味を持っていただくこと
トレジャーデータで、CDP for Salesを活用した「ABM Project」が本格的に始動したのは2020年の4月。エンタープライズ企業に注力するという全社的な戦略の変更があったことがきっかけでした。それまで、トレジャーデータのADRチームでは、主に大型イベントへの出展や自社イベントを開催し、獲得したリードをナーチャリングするといういわゆる「リード・ベースド・マーケティング」の手法をとっていました。
「ABM Project」の取り組みを開始した直後は、既存で活用していたMAとSFAからのデータと、Webのログデータや動画プラットフォームの視聴データなどをTreasure Data CDP内へ格納し統合するといった活動が中心でしたが、Sansan Data HubとFORCASを導入し、外部データと組み合わせてアカウント情報をエンリッチし、より顧客解像度を高めるといった活動にシフトしていきました。
顧客企業の情報が全てつながる「6象限の統合ABMデータ基盤」とは
トレジャーデータでは、ABMを以下のように定義しています。
「定義されたターゲットアカウント」からの売上最大化を目指し、データ統合を通じて該当アカウント及び在籍リード群の属性・行動・購買/商談状況を深く理解し、ターゲットへのマーケティング・セールス・カスタマーサクセス施策を最適化する取組み
CDP for SalesはABM、ひいては法人営業においてどのように活用できるのかをご紹介する前に、トレジャーデータがどういった統合データ基盤を構築しているかをご説明します。
トレジャーデータでは、Treasure Data CDP内に、「企業(Company)」と「企業に在籍する個人(Lead)を横軸、「属性(Attribute)」「行動(Behavior)」「購買/商談(Transaction)」を縦軸とする6象限からなる「統合ABMデータ基盤」を構築しました。
属性情報
「属性」の軸では、「企業」においては会社名と国税庁が発行する法人番号を対応させ、業種や売上高、従業員数や利用サービス/ツールなどを、外部データも利用して紐付けています。「企業に在籍する個人」のレベルでは、会社名やメールアドレス、部署役職、電話番号などを、トレジャーデータのWebサイトを経由して許諾のもと取得したデータや、名刺データをもとに格納しています。
行動情報
「企業に在籍する個人」の「行動」の象限をみると、トレジャーデータの1st Party Cookie及びWeb閲覧や資料ダウンロード、セミナー参加などの履歴、また電話への応対やチャットの反応、製品やサービスの利用ログといった行動が格納されています。そして、個人の行動から、IPアドレスをもとに個人が属する企業の単位で、Webの閲覧や資料のダウンロード、セミナー参加、またメールの反応履歴や電話への応対等の総和を「企業の行動」として捉えています。
購買/商談情報
会社名に紐づく商談の回数であったり、各商談の開始日、終了日、商談日数、契約金額、期間、件数、これを企業別、もしくは製品別に格納しています。個人としては商談別の企業内担当者をPrimary Contactとし、そのコミュニケーションやリードソース、商談ステージなど統合的に管理しています。
このような統合データ基盤を構築したことで、例えば、直近1ヶ月でのWebサイトの閲覧状況や資料ダウンロード・セミナー参加といった個人単位の行動が、企業単位でも可視化できるようになりました。
ABMデータ基盤を活用したターゲティング手法
また、前述の「6象限の統合ABMデータ基盤」をもとに、ターゲティングの精度向上を実現しています。
ターゲティングの手法は、次の3通りです。それぞれ、どのようなターゲティングができるのか、例とともに解説します。
1. 収集データにもとづくターゲティング
企業単位でのターゲティングでは、既に契約のある企業において、契約していない別ソリューションに関する資料のダウンロード回数が伸びている場合、同社内で、その未契約ソリューションの追加導入を検討している可能性が高いといえます。
この企業の「誰」にアプローチをするべきかを判断するためには個人単位での分析が必要です。例えば、資料をダウンロードしたりセミナーへ参加している個人の中の一人が、未契約製品を利用するであろう部門の部長クラスの役職者だったということが分かれば、その部長にアプローチを行えば商談化する可能性が高いと考えられます。トレジャーデータでは、データに対して一定のルールを設定することで、このようなホットリードを抽出しています。
2. SQL演算によるターゲティング
日々大量に発生するWebのログデータ等を、SQLを使って自由に加工し、意味のあるデータを作り出せるのもCDP for Salesをベースとした統合データ基盤の強みです。トレジャーデータでは、SQL演算により、一定の期間内にWeb閲覧数が一定の傾き以上で増加している企業を、潜在顧客企業として抽出しています。さらに、その潜在顧客企業内の個人をリストとして抽出することも可能です。直近のWebサイト閲覧日、閲覧頻度、閲覧ページ数をベースにスコアリングすることで、より精度の高いターゲティングを行うことができます。
3. 機械学習によるターゲティング
トレジャーデータでは、Treasure Data CDPの機能であるPredictive Scoring(GUIによる操作で、機械学習の一連のプロセスをワンストップで実現できる)活用して、例えば「製品AをXX円以上で、契約期間X年以上の契約済の企業群」を教師データとして、その属性、行動が類似した企業を潜在顧客企業として抽出しています。これにより、個人の場合も、潜在顧客企業の窓口担当者として類推し、ターゲティングを行うことが可能です。
Predictive Scoring機能を活用することで、自動で見込み顧客に対するアプローチの優先順位を付けられるため、営業活動を効率的に進めることができるようになりました。
後編では、上述した「統合ABMデータ基盤」のオペレーションと、その成果についてご紹介します。