プライバシーを重視したデータ戦略の構築

過去10年間、オンラインプライバシーとデータ共有に関する消費者の関心は成熟し、発展してきました。今日では、データに関する取り扱いに透明性が期待され、安全性が担保されていることが企業におけるデータプライバシーのスタンダードとみなされています。コンプライアンスを遵守し、消費者の期待に応えるため、企業は適切な場所とタイミングで、プライバシーと提供価値の交換を行う方法を進化させようとしています。

2022年に開催されたBig Data London Conferenceにおいて、トレジャーデータのDorothy ChongとLani Kakietは、アクシオム社のEuropean Privacy OfficerであるSachiko Scheuing博士と対談を行い、プライバシーを重視したデータ戦略構築の意味と、組織がそれを実現するのに役立つツールについて語りました。当記事では、その抄訳をお送りします。

「プライバシー・ファースト」の潮流

近年、消費者や政府の目に触れないところで、企業によるデータ収集の範囲が拡大し、高度化が進んでいました。しかし度重なるデータ漏洩やスキャンダルでデータ収集に耳目が集まるにつれ、公的な意識が高まり、規制措置の施行ならびに個人の行動は変化してきました。

グローバルに拡大するデータプライバシー規制は、その施行に関連して多くの法的措置が取られるため、間違いなくビジネス上無視できない状況となるでしょう。データプライバシーにおける法制化の時代はまだ始まったばかりです。Apple社やGoogle社のような大手ハイテク企業は、自社のデバイスやオペレーティングシステムを通じたデータ収集を制限し始めています。また、検索エンジンのDuckDuckGoや電子メールサービスProtonMailのように、プライバシーを第一に考えた代替サービスも登場しています。

企業が一般的に懸念するような内容が、ヨーロッパでは実際問題として、活発に問題提起されているタイミングです。当局が策定しているのは、データを用いてイノベーションを起こしながらビジネスを繁栄させるために、携わる全員が遵守すべき明確なルールです。

Scheuing博士は、英国は非常に有利なポジションにあるといいます。英国はすでに4年間ヨーロッパにおける一般データ保護規則(GDPR)に取り組んできました。EUを離脱した現在では、EUの他の地域と同じルールに従う必要がないため、データプライバシーをどのように進めるか、自分たちで決定することができるのです。

その英国では、新たな規制の可能性について協議プロセスが開始されています。GDPRが施行された当時には、そういった協議は行われませんでした。今後英国は、データとプライバシーにおける法律をよりバランスがとれたものにするために、より多くの機会があると考えられます。

しかし、法律が変わっても根本的なことは変わりません。データを扱うには「家の中を整理」し、良い習慣を身につけることが重要です。「データの仮名化(pseudonymization)」を検討しましょう。これは今すぐにでも導入でき、将来的にも有用です。

「保護を強化すればするほど、データの柔軟性は高まります。究極の柔軟性は、匿名化によってもたらされるでしょう」とScheuing博士はコメントしています。

Scheuing博士が最も注目しているのは、データをコントロールしようとしている企業が、サードパーティCookieの廃止をどのように管理するつもりなのかということです。企業は独自の「アイデンティティ・グラフ」を構築し始めています。最も簡単なアプローチとは言えませんが、強く推奨される手法と考えられます。

データ規制とCookieレスの未来

プライバシーの拡大がもたらす直截的で最大の影響は、サードパーティCookieの廃止です。Cookieは、Webサイトへの訪問者データを収集し、サイト全体で消費者を追跡し、プログラマティック広告のターゲティングを行うにあたって主要なツールでした。

このデータは、理論的には消費者の同意を得て収集されていましたが、実際に、自分が行った同意に気づいている消費者はほとんどいませんでした。新しい規制下にてより同意取得に明確な説明が求められた結果、同意のもと得られるデータは減少しています。さらに主要なブラウザは初期設定でサードパーティCookieを積極的にブロックしているか、ブロックする準備をしています。この事実は、大量の広告オーディエンス設定を行うために必要なデータの流れを断ち切ることになることを意味します。

世界中の消費者のうち40%は、ブランドに個人データを預けるのを積極的に望まないと認めています。
(出典: “Better Decisions: A Spotlight on Data Efficiency”)

モバイルアプリやいくつかのモバイルブラウザ、スマートテレビといったデバイスなどにおける、Cookieをサポートしないメディアにトラフィックが移行するにつれ、Cookieはすでにその価値を失っています。広告ブロッカーは、Cookieベースによる広告のリーチをさらに制限しました。Cookieで収集されたデータの範囲と深さは便利で強力でしたが、広告業界はCookieが登場する以前から機能していたのですから、Cookieレスの未来にもきっと生き残ることができるでしょう。

データプライバシーとセキュリティのために企業はどう革新しているか

チャネルを横断してデータを自社所有することで、ブランドはサードパーティCookieに依存することなく、消費者データの保護をよりコントロールすることができます。顧客のライフサイクル全体にわたって顧客と良好なコミュニケーションを取り、それを維持するために、データを組み合わせてインテリジェントに活用することが重要です。

成果を上げるマーケティング担当者は、データプライバシー規制がコンプライアンスと顧客の信頼に関わるものであることを理解しています。しかし、今日の断片的かつ複雑さを増すグローバルのプライバシーおよびセキュリティの潮流で信頼を築くためには透明性と選択可能性が必要であり、簡単なことではありません。信頼を獲得し維持するために、ターゲティングとパーソナライゼーションが求められます。顧客は自分の好みを把握し、尊重されていると感じることができなければ、信頼が生まれることはありません。

企業がセキュリティ、コンプライアンス、そして価値の交換に焦点を当て、データ戦略を革新するために、いくつかのステップが存在します。

  • ファーストパーティデータによるアプローチ

企業は、ファーストパーティデータのプライオリティを高く設定し、オーディエンスの特定や測定といった施策における指針として活用しています。ファーストパーティデータは、プライバシーファーストの潮流における今後の道筋に、重要な役割を果たすと考えられています。多くの広告主が、カスタマーデータプラットフォームのような、ファーストパーティデータの格納とアクティベーションに必要なツールを計画しているか、積極的に投資を行っているのは驚くべきことではありません。

  • データクリーンルームの検討

企業はパートナーと手を取りながら、サードパーティデータ以外の可能性を考慮し、ターゲティングと測定の手法を開発、進化させています。多くの企業ではデータクリーンルームについての検討が進んでおり、自社の技術スタックにどのように適合するか理解したいと言う要望が生まれています。

データクリーンルームは、ブランドがファーストパーティデータとパートナーのデータセットをプライバシーに配慮した方法で接続し、より大きなシグナルを捉え、高度なインサイトを提供し、データドリブンな成果を導き出すために計測を改善することができる仕組みです。

  • 確立されたガバナンスと統一されたチーム

企業におけるマーケティングはデータプライバシーコンプライアンスの根幹ですが、顧客の信頼とロイヤルティを獲得し維持することは、携わるすべての人の責任です。ガイドラインを明確にし、プライバシー担当責任者を明確にすることが、一貫した顧客体験の鍵になります。企業が顧客の利益を最優先していると顧客が心から信じるためには、自身のプライバシーに関して望んでいることに対して、企業が耳を傾け、全面的に理解していると信じられることが肝要です。消費者と企業の複雑なコミュニケーションを鑑みれば、企業内に適切に格納されているすべての見込み客と顧客の明確で統合されたプロファイルは、今後何年にもわたって信頼を生み出すことができるでしょう。

  • 統合データ基盤

CDP(カスタマーデータプラットフォーム)、データウェアハウス、データレイクのようなツールは、データの意味を理解するための適切なリソースがあって初めて有効となります。多くの企業が、信じられないほどデータが豊富であったり、リッチであったりするにもかかわらず、不足しているのはそれに基づく分析やインサイトです。データを理解し、アクティベートするために重要なのは、データエンジニア、データサイエンティスト、データの専門家です。データを活用して何をすべきかを考え実行する人間がいなければ、データを最大限に活用することができるはずがありません。

データプライバシーがマーケターにとって「死の接吻」のように感じられることがあっても、それはマーケティングの基本に立ち返るべきだ、というサインと受け止めるべきでしょう。最も基本的なこととして、マーケティングとは、感情的なレベルで心に響くメッセージで見込み客と真につながる方法を探求することです。適切だと思うメッセージには、消費者が自分のデータプライバシーが大切にされているという安心感を持ちながら、個人に関するデータを企業と共有しコミュニケーションするという反応が生まれるのです。

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ジム・スケフィントン
Treasure Data, Inc. テクニカルプロダクトマーケティングマネージャー

金融アナリスト、データアーキテクト、統計学者など、長年に渡りデータを扱う業務に携わってきた経験を持つ。最近では、統計学、データサイエンス、データリサーチの分野におけるソートリーダーシップが評価され、Royal Statistical Societyから表彰を受けた。また、米国海兵隊の大尉を務めていることを誇りに思っている。

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