トレジャーデータの1年を振り返る
Treasure Data, Inc. CEO兼共同創業者の太田一樹です。私がCEOに着任したのが2021年6月。この3月末に、CEOとして2回目の会計年度(2023年3月期)を終えることとなります。世界的に激動の時勢のさなかではありましたが、この1年の間、私たちトレジャーデータは弛まぬ努力を続け、多くの成果を挙げることができました。これもひとえに、私たちを支えてくださるお客様のおかげです。改めてお礼を申し上げるとともに、今回はこの1年を振り返ってみたいと思います。
新しいビジョンの策定:コネクテッドカスタマーエクスペリエンス
改めて、トレジャーデータはB2B向けのSaaSの会社です。提供しているのは、Treasure Data CDP(Customer Data Platform)、顧客データ基盤です。
現在、CDP企業は市場に約150社が存在しているとされています。IDCのレポートではCDPベンダーでリーダー企業に選出されました。日本市場においては、6年連続でトップシェアです(ITR調査レポートより)。
元々、Treasure Data CDPはマーケティング部門向けのソリューションでした。しかし、私たちはお客様と会話するうちに、企業内全ての部門(特に営業、コンタクトセンター)で同じ顧客データを参照する事が、法規制に準拠しながらより優れた顧客体験を提供していく上で非常に重要であるという事が理解を深めていきました。
求められているのは、全ての部門で「つながった(Connected)」顧客体験を実現すること。私たちはトレジャーデータ全体のヴィジョンとして、「コネクテッドカスタマーエクスペリエンス(Connected Customer Experience)」を掲げ、それを実現するソリューションを開発することにしました。対象となる部門はマーケティングに留まらないため、その製品ポジショニングを「カスタマーデータクラウド(Customer Data Cloud)」と位置付けることを発表しました。
組織体制と企業文化
トレジャーデータの共同創業者かつ現取締役会長である芳川裕誠は、しばしば企業組織について、「『最後は人』だとよくいいますが、『最初から人』なのです」という表現をしています(ご参考:日経ビジネスでの芳川連載)。
顧客および市場のニーズに応えるため、世界中で優れた人材を採用しチームを作るのが、CEOとして、私の最も重要な仕事です。この1年、販売、マーケティング、カスタマーサクセス、エンジニアリングなど、様々な部門で新しいメンバーが加わりました。
直近ではEngineering / Product / Customer Supportを束ねるKarl Wirth (Chief Product & Technology Officer)の採用を発表いたしました。 (プレスリリース)。KarlはEvargage社をCEO / Co-Founderとして創業し、Salesforce社に売却した実績を持っています。Evergageはその後Salesforce Interaction Studioという製品名で成長を続けています。特にReal-Time, AI/MLがKarlの強みですので、今後それらの要素がトレジャーデータの製品に色濃く反映されていくでしょう。
トレジャーデータの日本法人には、1月からVP of Salesとして田井義輝が入社しています。田井はSalesforce Japanで執行役員を務め、Salesforce Marketing Cloudのビジネス拡大に大きく貢献しました。トレジャーデータ日本法人の代表取締役社長の三浦喬と共に、日本におけるビジネスの拡大を担当します。
もうひとつのトピックは、2023年1月に社員向けに策定した「9つの文化行動指針(Culture Guiding Principles)」です。インフレ加速、金利上昇による株価の低迷、戦争、銀行破綻など、世の中は混迷を極めています。企業価値の観点においては、成長率一辺倒から効率性重視へと市況が変化しました。
「9つの文化行動指針」は、いかなる状況にあっても、常にお客様目線に立ち、変化に柔軟に対応し、多様なメンバーが活躍できる組織文化の醸成を支えるための精神的支柱となることを目指しています。
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- Customer is Never Wrong
- Be a Driver
- Build a Winning Team
- Be a Pro Communicator
- Be Adaptable to Change
- Be Frugal
- Remove Muda (Futility)
- Trust is Paramount
- Value Inclusion, Belonging & Equity
グローバル市場への積極的展開
芳川と私、そして古橋貞之の日本人3人で創業したTreasure Data, Inc.。創業してから最初の10年間は、日本市場での販売に成功し、ARR 100億円を超えたタイミングでも、多くの売上は日本市場からによるものでした。
しかし、エンタープライズソフトウェア市場で日本市場は約5%に過ぎず、約60%は米国、20%はヨーロッパに存在します。私たちトレジャーデータがARR 1,000億円を目指す上では、米国をはじめとしたグローバル市場への拡大が急務でした。
「グローバル」が現在のトレジャーデータではキーワードです。約250億円の資金調達を行った2021年以降、私たちは従業員数を大幅に増やし、グローバル市場への展開に力を入れました。
トレジャーデータのサービスにおける特徴上、あるグローバル企業で採用された後、その企業の他の国での活用にも採用いただくケースが非常に多いです。組織としてその実情に即して、Professional Service, Customer Success, Customer Support, Partner Enablementの体制をグローバルで構築しました。Anheuser-Busch InBev社(バドワイザーに代表される、ビール及び飲料業界での世界最大手企業)では、実に約40カ国以上でトレジャーデータの製品をご活用いただいています。日本企業の顧客基盤を活かし、日本のグローバルエンタープライズの海外拠点で採用いただくような営業展開も積極的に行いました。
その結果、多くのグローバルブランドに採用していただく事ができました。私たちがこだわっているのは、全てのTreasure Data CDPプロジェクトで「最小の期間で最大限のROIを出す」ということです。多くのお客様に、10倍を超えるROIを届けることに成功しています。
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- Stellantis (自動車メーカー: 世界9位)
- Pokemon International (キャラクター: 世界1位)
- Anheuser-Busch InBev (消費財: 世界5位)
- Little Caesers (ピザチェーン: US3位)
- Cirque du Soleil (サーカス: 世界1位)
現在も多くのグローバルブランドにおいて、Treasure Data CDPの構築プロジェクトが走っています。今後も顧客事例を積極的に発表させていただきたいと思っています。
上記のようなグローバルでの活動結果から、今後3〜6ヶ月以内には日本のARRよりグローバルでのARRのほうが大きくなる見込みです。現状ではForbes Global 2000企業のうち約50社にトレジャーデータの製品をご活用いただいていますが、ここから残り1950社、つまり約40倍の企業に採用いただくのが目標です。
目指すべき市場は巨大です。私たちはその巨大なマーケットで、圧倒的なシェア世界1位を目指します。
プロダクトの最新機能リリース
トレジャーデータのエンジニアチームは、プロダクトに月に約500以上、年間約6,000もの変更を加えています。1年前の製品とはほぼ別物と言っても過言ではありません。今年度にリリースされた変更から主だったものをご紹介いたします。
Journey Orchestration
1つめはまずご紹介するのはマーケター向けの機能「ジャーニーオーケストレーション(Journey Orchestration)」です。この機能を使用することで、エンジニアリングスキルを持たないビジネスユーザーでも、ドラッグアンドドロップの操作で顧客向けのエクスペリエンスを構築できます。
カスタマージャーニーのシナリオ構築については、多くのマーケティングテクノロジー製品でも類似機能を提供していますが、アプローチできるチャネルが限られている(EmailやSMSのみ)、利用できるデータ種別が乏しい(全ての顧客データが使えない)、適用できる規模も限定的であるという問題を抱えていました。
ジャーニーオーケストレーションは、上記のような問題を全て解決できるソリューションです。企業が既に利用しているあらゆるマーケティングチャネルに接続し、Treasure Data CDPに保存されている顧客データを含む全てのデータを活用でき、何千万ユーザーが来てもスケールできる設計です。
Audience Studio
ビジネスユーザーが顧客セグメントをドラッグアンドドロップで作成できる「オーディエンススタジオ(Audience Studio)」も、version 5をリリース。多くの進化を遂げました。
Activation Template機能により顧客セグメントの活用が非常に簡単になるなど、UI/UXを日々改良しています。また、個人情報の秘匿機能、パーミッション機能、Audit Logなど、使いやすさとセキュリティを両立しているのも特徴です。
CDP for Service / Sales
「コネクテッドカスタマーエクスペリエンス」のビジョンの下リリースされたのが「CDP for Service (コンタクトセンター)」「CDP for Sales (営業)」という2つのソリューションです。
CDP for Serviceでは、Salesforce Service Cloud, Genesys, Zendeskなど既存のコンタクトセンターソフトウェアとTreasure Data CDPを連携させることで、コンタクトセンターで実際に顧客対応にあたるオペレーターに、リアルタイムの顧客情報を提供したり、着信呼自動分配をする事ができます。CDP for Salesも同様にCRMなど既存の営業テクノロジーツール、ソリューションとTreasure Data CDPを連携させることができます。
AutoML
「AutoML」は「Automated Machine Learning」の略称です。その名の通り機械学習(主に教師あり学習)における多くのプロセスを自動化してくれることにより、従来より圧倒的に短いリードタイムで機械学習を実行することができるようになりました。
AutoMLは、一般的に上図のような「データの前処理」から「精度向上」に至るまでを自動化するため、機械学習の実行のための敷居を大幅に下げることができます。
これまで機械学習の現場では、データの準備やモデルの精度向上を行うためにデータエンジニアやデータサイエンティストと呼ばれる職種が必要でした。しかし、AutoMLでは、機械学習に深い知見のない担当者の場合でも、自ら機械学習を実行することを実現します。
また、AutoML上では、主にマーケティング領域におけるマルチタッチアトリビューションやネットワーク分析といった高度なデータ分析も、Notebookとして提供しています。
まとめ
以上、トレジャーデータの1年をおおまかにまとめてお伝えいたしました。この一年間で、私たちは新しいビジョン策定、チーム拡大、製品の改良、新しい機能のリリースなど、着実な前進を遂げてまいりました。
来期におきましても、チーム一丸となってお客様および市場と向き合い、顧客データを利用した企業の変革をお手伝いさせて頂く所存です。引き続き応援のほどよろしくお願い致します。
太田 一樹
Treasure Data, Inc. CEO 兼 共同創業者
2011年に米国シリコンバレーにてトレジャーデータ社を芳川、古橋とともに起業し、最高技術責任者(CTO)に就任。2021年6月より最高経営責任者(CEO)。
世界最大のHadoopユーザーグループである日本のHadoopユーザー会創設に尽力。分散・並列コンピューティングのエキスパートとしても知られる。